第二八章

ここに残ればヘンリーに閉じ込められる。出ていけば、職を潰しかねない苦情を突きつけられるかもしれない。

選択肢を天秤にかけていると、ヘンリーは何でもない調子で付け加えた。「そうだ、君の携帯と財布、俺が持ってる。返してほしいんじゃないのか?」

くそ……。昨夜の警察署での一件のあと、あいつから逃げることに必死で、荷物のことなどすっかり頭から抜け落ちていた。

すっと血の気が引いた。携帯には、代えの利かない心臓移植の研究資料が山ほど入っている――希少症例の報告、新しい手術手技、特異な所見を示した患者の詳細な経過。

何か月もかけて集めたデータだ。それを失うかもしれないと思うと、胃がきゅっと縮んだ。...

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